2022.02.17 設備・建築

倉庫・工場の天井クレーン点検していますか?

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天井クレーンを装備した倉庫・工場関連の物件はそれほど多くなく、メンテナンスの必要性もしっかり認知されていないのが実情です。
それらの物件のクレーンは2.8t 以下のタイプが多いですが、「2.8t 以下のクレーンは基本的に点検の必要はない」と間違った認識が広まっているのも問題。

安全衛生法第45 条および関連するクレーン等安全規則では、吊り上げ荷重0.5t以上のすべてのものは定期自主点検の対象だと定めています。
該当物件を管理する側は、この点をしっかり踏まえた設備管理と工場運営が不可欠です。

クレーン点検の重要性

倉庫や工場に取り付けられた天井クレーンは、作業現場において数百㎏以上の重量物を運搬するインフラの役目を担います。
取り扱われる物資や資材の中には数百t に上る重量物もあり、過酷な使用状況の中で激しい消耗は避けられません。

動力となるモーターや制動を左右するブレーキ、基礎を構成する金属部品やパーツ。
これらの劣化・損耗が進んで故障や不具合でも招けば、作業効率が低下するばかりでなく、重大な事故にも直結する恐れがあります。
設備の不調はいつ起こるとも限らないため、リスクを最小限に抑えるためにも定期的な点検・メンテナンスが重要となります。

点検を怠ったため送検された業者も

ほとんどの業者が法定点検を行っていると思われますが、中には点検を怠って重大事故を招いた結果、摘発を受けた業者もいます。
福岡県の電気めっき業を営むとある会社は、平成26年12月、約300㎏のアルミ板を吊り上げていた最中に重機と走行レールを倒壊させるトラブルを引き起こしました。重機とレールは地面に落下して真下で作業していた労働者に激突。その作業員は4日後に死亡したとのことです。

同会社が取り扱っていたものは吊り上げ荷重2tのものでした。
重量が比較的軽いタイプだと、自主点検は必要ないと思っていたのかもしれません。この会社と同社の工場⾧は福岡中労働基準監督署の調査により、安全衛生法第45 条(定期自主点検)違反の疑いがあるとのことで福岡地検に書類送検されました。
同労働署はこの業者に対して「定期検査を実施する体制もなく、点検に必要な資材も十分そろっていなかった」と話しています。

ほとんどの業者が法定点検を行っていると思われますが、中には点検を怠って重大事故を招いた結果、摘発を受けた業者もいます。

法律で定められた自主点検基準

天井クレーンの設置業者には、労働安全衛生法第45条に基づき、「1年以内ごとに1回および1ヶ月以内ごとに1回」の自主検査が義務づけられています。

点検対象のタイプは?
労働安全衛生法によると、次に該当するタイプは定期的なメンテナンスが欠かせません。
これらのクレーンは所定の検査項目について点検を行い、その記録は3年間保管しなければなりません。自主検査を実施する場合は、厚生労働省通達の「定期自主検査者安全教育要領」に基づいた教育カリキュラムを実施している業者の選定が推奨されます。

定期自主点検指針
倉庫や工場に取り付けられた天井クレーンは、「クレーン等安全規則」の規定の中で、検査すべき箇所やメンテナンス方法の判定基準を定めています。
検査項目は、「ランウェイ部分」「鋼構造部分」「走行機械装置」「横行機械装置」「潤滑装置」「電気関係」「安全装置」「荷重試験」の9項目。それぞれに判定基準が設けられており、それに適合しなければ補修・交換・大幅なメンテナンスなどの措置を取らなければなりません。

点検・メンテナンス方法

点検は、点検を行う時期とタイミングによってその内容が異なります。以下は、「労働安全衛生法」「労働安全規則クレーン等安全規則」などに定められた点検および点検項目です。

年次自主点検
吊り荷重500 ㎏以上タイプのすべては、設置したあと、1年に1度以上、以下の箇所を調べる必要があります。

・構造・機械・電気部分
・ワイヤーロープおよびロープ
・吊り具
・基礎部分
・荷重検査
上記箇所の劣化状況を調べ、不具合が見つかれば早急にメンテナンスを実施しなければなりません。

月次自主検査
吊り上げ荷重500㎏以上のすべてのクレーンは、設置後、以下の項目の検査を1ヶ月に1度以上実施しなければなりません。

・過巻防止装置や過負荷警報装置などの安全・警報装置とブレーキ・クラッチ
・ワイヤーロープおよびチェーン
・フックやクラブバケットなどの吊り具部分
・配線・集電装置・配電盤・開閉器・コントローラー
・ケーブルクレーンの場合、メインロープやレールロープ、ガイロープを結びつける部分の状態
毎月1回、これらの劣化具合を綿密に調査する必要があります。

作業開始前点検
自主的な定期検査で何も異常がなくても、その日の作業開始前に必ず天井クレーンの点検を実施することも義務とされます。モーターやワイヤーロープ、電子系統に不備がなく、正常に作動するか厳格なチェックを行い、安全性を確認したうえで作業開始する流れです。

性能検査が必要なクレーンに関する補足事項
なお、吊り上げ荷重3トン以上(スタッカークレーンは1 トン以上)のクレーンに関しては、自主検査以外にクレーン検査証の更新が必要になります。
クレーン検査証の更新には「性能検査」を受けなければいけませんが、こちらは事業者ではなく、厚生労働大臣の登録を受けた「登録性能検査機関」という専門の業者による性能検査が必要になります。
当該クレーンには有効期間が定められたクレーン検査証が交付されている筈ですので、有効期間を確認の上、性能検査申請を登録性能検査期間に提出しましょう。

天井クレーンの種類

両側の壁上部に架けられたランウェイ(走行軌道)を走行する天井クレーンには、いくつか種類があります。

グラブトロリ式
一般的に採用されているタイプで、クラブトロリと呼ばれる稼動システムでクレーンを走行させます。クラブフレームに備えられた巻上装置と横行装置の働きにより、クレーンガーダの上をトロリが横行するタイプがこのクレーン。
用途は設備機械や部品の運搬など、幅広い作動領域を確保します。

ロープトロリ式
ガーダに備え付けられた巻上装置と横行装置のつり具台車稼動によって、荷物を運搬する構造です。
クレーン全体の質量を軽く抑えられるものの、ワイヤーロープが摩耗しやすく、そのうえ横行時の安定性に欠けるなど、課題も多いことから導入率もそれほど高くありません。

ホイスト式
主に床上で操作する、電気ホイスト使用タイプの形式です。トロリの代わりに設けられた電気ホイストを使ってクレーンを走行させます。
一般的に小型・容量タイプが多いのが特徴。
用途はクラブトロリ式と同様で、さまざまな機械部品の運搬に対応します。

クレーン設置費用は?コストダウンのための導入ポイント

天井クレーンの新設費用は、その種類や重量によって異なります。
物件状況によっては、建物の柱に直接取り付ける場合もあれば、新しくクレーン用の柱を設置してレール装備するケースもあり、さまざまです。コストを抑えた導入を検討するなら、以下の点を踏まえてください。

クレーンのタイプは、運搬物の重量に合わせる
まずは運搬したい荷物の重量を把握し、それにふさわしいタイプのものを選択することが重要です。
重量10t を超える荷物を扱う場合、トップランニング式ダブルクレーンがおすすめです。10tを下回る場合は、トップランニング式シングルクレーンがベター。
運搬物の重量に合わせ適切なタイプを選べばコストダウンにつながります。

ホイストは既製品がオススメ
ホイストはメーカーの既製品の中から選ぶと特注品を買うよりコストカットできます。
既製品は「6m」「8m」「12m」というふうに揚程が標準化されており、10mの揚程が必要であれば12m タイプで賄えます。
必要な揚程に合わせた既製品のチョイスは、コスト戦略としても賢明です。

走行ガータが長ければウレタン車輪を選択
走行ガータが20m を超える場合、軌条レールの材料コストと設置費用が不要となるウレタン車輪がおすすめです。
無軌条クレーンサドルを使えば、走行レールはH 形鋼のみとなり、一般的に用いられる軌条クレーンより費用の節約が図れます。

さいごに

吊り荷重500 ㎏以上の天井クレーンは、安全衛生法第45 条に則り、定期的に自主検査を実施しなければなりません。天井クレーンのメンテナンス計画をスムーズに進めるには、優良業者の選定作業が欠かせません。目安となるのは、厚生労働省通達の「定期自主検査者安全教育要領」に基づいた教育カリキュラムを実施している業者かどうか。依頼する際はこの点をしっかり確認しましょう。

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